Bluetooth無線機考察
Bluetooth Radio Considerations.

 バイクの世界では最近は「無線機+ヘッドセット」と言う組み合わせでは無く、ヘッドセットのみで複数のヘッドセットと直接通信する、と言う方式が流行っている様子(ちなみにバイク専用のヘッドセットはインカムと呼ぶ模様)。まぁPTTも不要で電話ばりに常時双方向で話せるってのは受け入れやすいのやも知れん。が、自分は話す時のみ明示的にPTTを押して送信する、と言うスタイルが好きである。なので、今後も無線機は使い続けたいと思う。

 さて、ではどんな無線機があるのか、と市場を見回してみると一時の隆盛を誇ったラインナップはかなり減っている印象。まぁヘルメットの中にマイクとスピーカーを仕込み、それと直接有線で接続する、と言う事であれば「モービル機」と言われた機械なら使えるとは思うが、一度ヘルメットと無線機を有線で接続しない「ワイヤレス」を体験するともう有線には戻れなくなる。ただ、安定性では有線なのは間違い無い。利便性の無線か、安定性の有線を取るかと言う事にはなる。まぁ安定性には目を瞑って、利便性の高い無線、と言う事では必然的に選択肢は「Bluetooth搭載機」と言う事になってくる。

 Bluetooth搭載機と言う事で条件を絞って見回してみると、以下がリストアップされる。FTM-10VX-8が登場した時には、遂に無線機界にもBluetoothが!! と色めき立ったもんだが、あれから数年、そこそこ種類も増えてきた様子ではある。

メーカー 機種名 防水性能 Bluetooth Ver. 実装プロファイル AM/FMラジオ受信 備考
ICOM ID-5100 + UT-133 - 3.0 HFP,HSP,SPP -
ID-4100 + UT-137A - 5.3 HFP,HSP,SPP,HRP,GATT -
IC-2730 + UT-133 - 3.0 HFP,HSP,SPP -
IC-705 - 5.3 Class 1 HFP,HSP,SPP,GATT(Serial) over LE 0-146MHz
ID-52 IPX7 4.2 Class 2 HFP,HSP,SPP,GATT(Serial) over LE 76-108MHz 生産終了
ID-52PLUS/60th Annivasary IPX7 5.3 Class 1 HFP,HSP,SPP,GATT(Serial) over LE 76-108MHz
KENWOOD TH-D74 IP54/55 3.0 Class 2 HSP,SPP 0.1-76,76-108MHz (WFM) 生産終了
TH-D75 IP54/55 3.0 Class 2 HSP,SPP 0.1-76,76-108MHz (WFM)
TH-D750 - ? ? ?
YAESU FTM-10S + BU-1/2 IP57 2.1 + EDR Class 2 HSP,A2DP 504-1710KHz,76-220MHz 生産終了
VX-8D + BU-1/2 IPX7 2.1 + EDR Class 2 HSP,A2DP 504KHz-999.900MHz 生産終了
FT3D IPX5 4.2 Class 2 HSP? 520KHz-999.995MHz 生産終了
FT5D IPX7 4.2 Class 2 HSP? 520KHz-999.995MHz
FTM-350D + BU-2 - 2.1 + EDR Class 2 HSP,A2DP 0.5-999.99MHz 生産終了
FTM-400D + BU-2 - 2.1 + EDR Class 2 HSP,A2DP - 生産終了
FTM-100D + BU-2 - 2.1 + EDR Class 2 HSP,A2DP - 生産終了
FTM-300D - 4.2 Class 2 ? -
FTM-6000 + BU-4 - ? ? -
FTM-200D + BU-4 - ? ? - 生産終了
FTM-500D - 5.0 Class 1 HSP? - 生産終了
FTM-510D/ASP + BU-5 - 5.3 Calss 1 (A2DP, AVRCP, HFP, HSP, PBAP, SPP, GATT)? -
FTM-150/ASP + BU-5 - 5.3 Calss 1 (A2DP, AVRCP, HFP, HSP, PBAP, SPP, GATT)? -
FTX-1系 + BU-6 - 5.3 Calss 1 (A2DP, AVRCP, HFP, HSP, PBAP, SPP, GATT)? -
SENA SR10 防滴設計? 2.1 + EDR HFP,HSP - 生産終了

 大きく分けて、Bluetooth標準装備かオプションを装着する事で使える品か、となる。SENA SR10は既存の無線機と接続する事で、Bluetoothが使える様になる品なので無線機そのものでは無いが、まぁこういうのもあると言う事でリストに加えた。
 まずバイクで使うと言う事で真っ先に考えるのは「防水性能」である。ICOMのモービル3機種と新製品のIC-705、更に八重洲のFTM-xx0D系はこの時点で脱落する。その他を見ると、ハンディ機ならそこそこの防水性能はある感じではある(IPXになっているものは防塵性能未検証)。数値上の性能だけで見ると、防塵+防水で等級も一番上のYAESU FTM-10Sが良さそうとなってくる。同じ八重洲でもFT3Dは先代のVX-8DがIPX7だったのにIPX5に劣化しているのがいただけない。実際、VX-8Dでは厳重になっていたマイク端子周りもFT3Dは単なる3.5φの4極端子になっている。ジャック周りの防水性も全く考えられていない。つまり、この性能を維持出来るのは全ての穴を塞いだ単体での使用時のみ、となる。現実の利用シーンで電源はバッテリーだけで外部PTT無し(※)、と言う状態で使う事なんざ考えられないので何でこんな中途半端な仕様にするのか理解に苦しむ。

VX-8D+BU-2と言う組み合わせで使用する場合、BluetoothをONにすると急激に消費電力が増加し、とてもバッテリーでは使い物にならなくなる。最新のVer.4.0以降のLEだと話は違って来るのやも知れんが、FT3Dは4.2だから十分バッテリー運用で行けるってんで端子周りをコストダウンしたってか!?
 PTTについては、VOXと言う機能があるにはあるが、これをPTTの代わりとして使うのは現実的では無い(独特のやり方(例えば、送信開始時には一旦音を出して一呼吸置いた後に喋り出し、隙間を開けず喋り続ける等して送信中を維持する)が必要)。

 次に最も重要な"Bluetooth"。オプション品も一体として扱うが、まずVersionを見てみよう。2.1+EDRから5.3まであるが、自分の環境はヘッドセット(KTEL KT-BSH05)側が2.1+EDRである。つまり、2.1以上の機能はあっても使えないのでわからない。それを踏まえて、実際の使い勝手で見てみたところ、全て2.1扱いされるので差は無い様に思える。ただ、FT3Dとの接続では最初の接続も早く、再接続でも問題なくつながる。作りの問題なのかも知れないが、これはVX-8Dで最も不満に思っていたところのなので改善されたのはありがたい。
※3.0以前と以降は別物である。機器側の実装次第では3.0以前の無線機が接続できなくなる可能性はある。
 問題なのは「プロファイル」。前述のヘッドセット側の実装はHSP,HFP,A2DP,AVRCPである。無線機側との接続には主にHSPもしくはHFPとA2DPが使われると思われる。無線機用のBluetoothモジュールとして初めて登場したBU-1にはHSPとA2DPがあったため、FTM-10SVX-8Dではラジオ機能についてはステレオ音声で聞こえていた(通常の無線通話についてはモノラル)。ところが、現行機種のFT3Dでは非常に聞き取りにくいモノラル音声でしか聞こえない。手持ちの機材で検証したところ、A2DPしか持っていない機器にはペアリング出来ない。どこにも仕様の記載が無いが、どうやらHSPかHFPのみしか実装して無い様なのである。これは痛い。前述の様にVX-8Dの弱点だった再接続性が改善したのは良いが、ラジオの音声は著しく低品質でしか聞こえないのである(しかもVX-8D比で音が小さい。かなりの大音量にしても不明瞭で聞き取りにくい)。と考えると、A2DPを搭載した機械は他には存在しないため(これを書いている時点でID-52は発売予定で詳細はわからないが、まぁA2DPが搭載されてくる事は無いと思われる)、ステレオ音声を重視するなら最初に登場したBU-1/2以外の選択肢が無い、と言う事になる。ちなみにBU-1/2並びにそれを搭載出来、且つラジオも聞ける品のVX-8DFTM-10Sは既に生産終了である。今や流通在庫で残っていたらそれを狙うしか無いと言う状態。

 と言う事で、結論は、

 単なる無線機とヘッドセット間の通信しかしないなら最新のBluetooth内蔵機種で良さそう

 だが、

 ラジオを快適なステレオ音声で楽しみたいならVX-8DFTM-10S。再接続性を考えると、問題の少ないFTM-10Sが最良!!

 と言う事になる。


 自分だけかも知れないが、ツーリング等でも喋っていない時や、そもそも一人で乗る時は常にラジオを聞いている。実質9割がその状態だが、そこで聞こえる音声は綺麗な方が良い。そうすると上の結論になるのだが、もはや生産終了の品が最良と言うのは情けない限りである。AF DUALと言うラジオを聞きながら使う事を想定していると考えられる機能があるだけにこの様な仕様にするのは意味がわからない。無線機メーカーはどうか実情を鑑みて、ラジオ付きのA2DP搭載機を即刻検討して欲しい

 この結果から、ID-52の発売の一報には、VX-8Dの強力な切り替え候補が登場した!! と喜んだもんだが、ぬか喜びに終わりそうで残念な限りである。

 そういや、自分はしていないが、再生機器を別に接続して音楽等を聞く、と言う使い方が主流だったりするのだろうか? 確かにA2DPを無線機で占有してしまうとこの余地がなくなるため、無線機側は通信に特化した、と言う理屈も考えられなくは無いが、果たして?

その他の考察を以下にまとめて見た。
Bluetooth無線機考察(2)


Last modified: Tue May 06 19:08:16 2025 JST